パレスチナ問題とロードマップ

 すんげー誤解されやすいのを承知で言うと、パレスチナ問題には大きく分けて二つの派閥があって、和平推進派と反対派がある。ここで重要なのは、パレスチナ問題はイスラエル問題だけれども、パレスチナイスラエルとの関係だけでは分からないという点で、つまり基本ですな。
 和平の障害には、イスラエルの右派(和平反対派)とパレスチナの和平反対派だけではなくて、アラブ諸国の思惑ってのもある(アメリカのユダヤ系ロビーってのもあるが、とりあえず省略。書いてるとさらに収拾付かないので)。ここのところを説明すると異常に話が長くなるのだけれども、飛ばすと説明にならないので書く。前提のイスラエルパレスチナの内部事情もとりあえず書かないとわからないのでかいつまんで説明。
 とりあえず大ざっぱに言うと、イスラエルには右派(パレスチナとの共存は不可能だ=安全保障優先、テロリストに死を)と左派(共存できる=こんな支配体制を続けていて未来があるわけない)が存在している。右派の一部に、(敵対してるはずの)パレスチナ過激派に武器援助を行ってテロを起こさせたり、アラブ側の反発を招くような軍事行動を行ってテロをあおることで緊張を高めて和平を妨害してる存在がいるのも確実視されてる。自作自演で主張の正しさを証明するって奴ですな。
 パレスチナにも、やはり大ざっぱに言って強硬派と穏健派(アラファト個人は、たぶん実際にはどちらでもない)がいて、それぞれに外国からの支援があったり、互いに牽制しあっていたりする。もっとも、強硬派には、和平が進みそうになるとテロ行為を行ってイスラエルの報復攻撃を誘発して妨害するっていう切り札があって、これはなかなか止められない。パレスチナ人はみんな基本的にイスラエルにひどい目に遭わされた経験があるわけだし、テロは防ぐよりも実行する方が遙かに簡単で、パレスチナ人社会が貧しくて明日をも知れない状況だし、テロ実行者の家族に報奨金が出るし、自殺攻撃も厭わないだけの情熱をもった人間に不自由してない上に、(アラブ諸国の非政府組織からの援助だけでなく)おそらくはイスラエル右派からの武器援助があるわけなんで、そりゃこれだけ条件が揃ってれば、ねえ。

 で、本題。要するに、アラブ諸国パレスチナ問題の解決を望む動機に乏しい、というのが根本にある。反イスラエルってのはアラブ諸国に共通する基本的な政治姿勢で、民衆も基本的にそれを望んでいる。外敵の脅威を唱えるというのは、国家の結束を高めて政権への反対を抑える一番簡単な方法ではある。
 逆に、安易に(安易にじゃなくても)イスラエルに妥協すると、サダト大統領のように暗殺されたりといった末路が待っている。アラブ諸国の民衆が本心でどの程度反イスラエルを望んでいるかは、実際にははっきりしない(匿名の信頼できる世論調査結果とかがあるわけでもないし)けれども、各国にも過激派はいて、テロを起こす機会を狙っているのは事実なので。
 アラブ諸国パレスチナ問題を無理して解決する必要性はない。反政府運動を抑えるのに「イスラエルパレスチナ人に対してやっていることを見ろ。国が弱ければああいう運命が待っている」ってのが非常に簡単ではあるし。

 そういう意味では、あくまでもアラブ全体との包括合意にこだわったシャミルの戦略が、実は一番正しかったとも言える(シャミルがそこまで考えていたかは別にして)。アラブ諸国全部が意見が一致するわけないから包括合意など無理という考え方もあるだろうけれども、実際にはパレスチナ問題は政治的な問題であって、つまりアラブ的にはメンツの問題でもあるので、そうなるとこの種の事柄の一般解は、

  1. 指導者が、反対を押し切って妥結する
  2. みんなで妥協する

 の二つしかない。最初の方はサダトやあるいは結局クリントン政権下で推進された和平が頓挫したりで、かなり難しいのは見れば分かる。次に包括合意の場合、要するに「われわれとしてはイスラエルの生存を認めるのは忍びないが、パレスチナ人の苦境を救うにはこうするしかなかった」という口実をアラブ諸国に与えることができる。みんなで妥協=互いに他国を非難するのが難しい状態になる、ので。っていうか、この方式でないとだれも譲る気のないエルサレム問題は解決できないとも思える。日本で見ている分には、「誰のものにしても角が立つから国際管理しかないんじゃないの?」としか思えないエルサレムの帰属であれだけもめるということは、おそらくもう、どうしようもないぐらいみんな(=民衆)の思い入れがある問題なので、下手な妥結はそれを行った政権が倒れるぐらいの危険度になっているとしか解釈できない。

 ここまで来てロードマップの話。実は最近、ブッシュ政権(大統領個人でなく政権全体)は実はイケてるんじゃないかという疑いを抱きつつある。今回のイラク侵攻を政治的にまとめると、

  1. 国連決議がなくても、世界中が反対していても、アメリカはその気になれば戦争できることを示した。
  2. 生物・化学兵器が実際に見つからなくても、政権基盤にはどうということはないらしい(現在進行形、最終的結末はまだわかんない)。
  3. アメリカ軍はやっぱり強いらしい。

 上記の結果を出した上でアメリカが中東和平を推進するというのであれば、それはそれで危険なこととして各国は考えなくてはならない。多くの人は「反対するようならイスラエル空爆する」は空虚な政治的スローガンでそんなことできるわけないという。それはその通りかも知れないが、あのセリフの正しい読み方は「イスラエルでも空爆するってんだから、つまりアラブ諸国ならどこでも空爆する気はあるぞ」ってことで、要するにイラクで起きた事実をバックに脅迫しているわけではある。怖いね。
 まあもちろんフセイン政権は国民から好かれていたわけじゃないのであっさり崩壊したという事情はあるにせよ、他のアラブ諸国にしてみれば、アメリカが攻めて来たときに本気で民衆が政権を守るために立ち上がってくれるという保証はないわけなので、そのあたりの事情はさして変わらないとも言える。
 で、ネオコンはいわゆる中核グループは確かに本心から信じてるっぽいけど、チェイニーあたりは紛れもなく、ネオの付かない方の保守派なので、たぶんそうじゃない。ホワイトハウスの政策がどう決定されているかはイマイチ分からない部分もあるけれども、要するに「ネオコン的主張を利用している」という可能性もある。つまり和平(=アメリカの政策)に逆らう相手は空爆したり、あるいは「民主主義の輸出」なりのネオコン的な手法で締め上げるとかの選択肢を持って来るのではないかと推測させる、ってわけである。
 旧来の勢力均衡政策とネオコンの考え方とはだいぶ違っているけれども、他国をどうにかする時の手段としてネオコン的政策を使う、という可能性もある。